老人ホームの苦情はどこに相談する?相談先・伝え方・改善しない場合の対応を解説
老人ホームへ入居したあと、本人から突然、
「職員に嫌なことをされた」
「ちゃんと介護してもらえていない」
「頼んでも何もしてくれない」
と聞かされたら、家族としては心配になると思います。
特に面会中、職員がいないところで本人からこっそり聞かされれば、
「母ちゃん、施設でひどい扱いを受けているんじゃないか?」
と思うのも無理はありません。
ただ、施設ケアマネとして実際にこうした相談を受けてきた私が、最初に家族へ伝えたいことがあります。
本人の話は無視しない。でも、その話だけで職員を悪者にもせず、まず事実を確認してください。
実際に調べると施設側の対応に問題が見つかることもあります。
一方で、本人と職員の行き違いや勘違いだったり、確認しても訴えた内容を裏付ける事実が見つからなかったりすることもあります。
大切なのは、「本人を信じるか、施設を信じるか」の二択にしないことです。
この記事では、施設ケアマネ・老人ホーム入居相談員としての経験をもとに、老人ホームで困ったことが起きたとき、家族がどう動けばよいのかを解説します。
- 本人から不満を聞いたときの対応
- 施設へ確認した方がよいケース
- 苦情を伝える順番
- 施設以外の相談先
- 虐待などが疑われる場合の相談先
- 本人から「職員に嫌なことをされた」と聞いたら?
- 逆に、本当に施設側に問題があることもある
- 俺なら母ちゃんの「愚痴」と「異変」は分けて考える
- 苦情は「施設を責めるため」ではなく事実を知るために伝える
- 老人ホームへの苦情はまず誰に言えばいい?
- 苦情を言うと母ちゃんの扱いが悪くならない?
- 施設へ相談しても解決しないときは外部へ
- 苦情を伝える前にメモを残しておこう
- 家族の希望でも施設にはできないことがある
- それでも改善しないなら施設を変えるのも選択肢
- 施設を変える前に本人の気持ちも確認しよう
- こんなときは施設との話し合いだけで終わらせない
- 老人ホームの苦情でよくある質問
- まとめ|母ちゃんの話も施設の話も聞いて、それでもおかしければ動く
本人から「職員に嫌なことをされた」と聞いたら?
老人ホームでは、本人が面会に来た家族へ職員への不満を話すことがあります。
私が施設で働いていたときも、こうしたケースは珍しくありませんでした。
そして、実際に多かったのが「サービスが足りない」という訴えです。
本人としては、
「頼んだのにやってくれなかった」
「職員が来てくれなかった」
と感じている。
一方、職員へ確認すると別の事情が出てくる。
そんな行き違い・勘違い・すれ違いは実際にありました。
本人の訴えは大事。でも事実確認も大事
施設ケアマネをしていた頃、本人が面会に来たご家族へ、職員に対する不満をこっそり話すことがありました。
中には、
「あの職員にいじめられている」
という訴えまで出ることがあります。
当然、ご家族からすれば心配です。
ところが職員への聞き取りなどを行っても、本人が話している内容を裏付ける事実が確認できないこともありました。
難しいのは、事実確認をする前から「親が言っているんだから、その職員が悪い」と決めつけてしまうケースです。
そうなると、何も確認されていない段階で職員が当事者として扱われてしまいます。
だからといって、本人の訴えを「勘違いでしょう」で終わらせるのも違います。
本人の話を聞く。そして施設側にも確認する。
私は、この両方が必要だと思っています。
家族から施設へ確認するときも、最初から、
「お宅の職員が母をいじめている!」
と決めつける必要はありません。
「母がこう話しているのですが、普段の様子はどうですか?」
「何か思い当たることはありますか?」
この聞き方でも、施設側は確認できます。
そして施設から説明を受けたうえで、本人の話と照らし合わせて考えればいいのです。
逆に、本当に施設側に問題があることもある
ここは誤解してほしくないところです。
「本人の話だけで決めつけない」=「施設を信用して黙っていればいい」ではありません。
実際に確認した結果、職員側に問題が見つかることもあります。
しかも問題を見つけるのは、家族とは限りません。
一緒に働いている職員が「これはおかしい」と気付くこともあります。
職員からの報告で発覚したこともあった
私が施設ケアマネとして勤務していた施設で、車いすを利用している方に対する職員の介助について、別の職員から上司へ報告が上がったことがあります。
その職員が、立ち上がろうとする利用者さんを無理に座らせようとする場面を何度も見て、
「これはおかしいのではないか」
と報告したことがきっかけでした。
施設側で防犯カメラなどを確認したところ、不適切な対応が確認されました。
その後、ご家族へ状況を説明し、職員への対応が行われ、私も施設長やエリアマネージャーと一緒にご家族へ説明と謝罪に伺いました。
施設で働く職員全員が、問題を隠そうとするわけではありません。
同じ現場で働く職員だからこそ、「これはおかしい」と気付き、上へ報告することもあります。
なお、施設が「不適切な介助だった」と判断することと、高齢者虐待防止法上の「虐待」と行政が判断することは同じではありません。
高齢者虐待防止法では、養介護施設従事者等が、職員による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合、速やかに市町村へ通報することが定められています。
また、施設側には職員研修や家族からの苦情を処理する体制など、虐待防止のための措置を講じることが求められています。
俺なら母ちゃんの「愚痴」と「異変」は分けて考える
ここからは制度ではなく、私自身が家族の立場だったらどうするかという話です。
もし私の母親が老人ホームへ入居していて、元気に生活しながら、
「あの職員が嫌なのよ」
「ご飯がおいしくない」
「こんなところ嫌だわ」
と愚痴を言っているくらいなら、まず話は聞きます。
そのうえで普段の様子に問題がなさそうなら、職員へ、
「またこんなこと言ってるんで、聞き流してください(笑)」
くらいに伝えるかもしれません。
でも、母親の体が不自由になり、介助が必要になった状態で、面会へ行ったときに見覚えのない打ち身やあざ、皮下出血を見つけたら話は変わります。
「これ、どうしたの?」
私はまず施設へ確認します。
高齢になると皮膚が弱くなったり、さまざまな原因で皮下出血が起きたりするため、あざがあるだけで職員の不適切な介助と決めつけることはできません。
それでも、本人が説明できない、家族も聞いていない、施設からも何も説明されていないのであれば、「いつ、どこで、どうしてできたものなのか」を確認します。
有料老人ホームの標準指導指針では、サービス提供によって事故が発生した場合、施設は速やかに都道府県等と入居者の家族等へ連絡し、事故の状況や対応を記録することとされています。
ただし、どのような外傷が「事故」に該当するか、自治体への報告が必要になる範囲などは施設種別や自治体の取扱いによって異なる場合があります。
だからこそ、原因の分からない外傷を見つけたら、家族だけで結論を出さず、まず施設へ説明を求めることが大切です。
苦情は「施設を責めるため」ではなく事実を知るために伝える
老人ホームへ苦情を伝えるというと、どうしても、
「施設とケンカする」
ようなイメージを持つかもしれません。
でも、本来はそうではありません。
何が起きたのかを確認し、本人が安心して暮らせる状態に戻すこと。
これが一番大切です。
国の有料老人ホーム設置運営標準指導指針でも、入居者からの苦情について迅速かつ円滑な解決を図るため、施設側に苦情処理体制を整備し、外部の苦情処理機関について入居者へ周知することが示されています。
つまり、家族が施設へ相談すること自体は特別なことではありません。
ただし、最初から犯人を決めて話す必要もありません。
- 本人が何と話しているか
- いつ気付いたのか
- 家族が実際に見たこと
- 施設に確認してほしいこと
- どう対応してほしいか
本人の話と、家族が実際に見たことと、家族の推測。
この3つを分けて伝えるだけでも、施設側はかなり確認しやすくなります。
そして確認した結果、本当に施設側に問題があれば、施設には改善してもらえばいい。
説明を聞いて行き違いだったと分かれば、それも一つの解決です。
それでも説明に納得できない、同じことが繰り返される、虐待や重大な不適切ケアが疑われる。
そんなときは、施設の中だけで解決しようとする必要はありません。
次に、施設長・施設ケアマネ・自治体・国保連など、状況に応じてどこへ相談すればいいのかを整理していきます。
老人ホームへの苦情はまず誰に言えばいい?
老人ホームで気になることがあったとき、意外と迷うのが「誰に言えばいいの?」という問題です。
結論からいうと、すべての苦情を最初から行政へ持っていく必要はありません。
本人の生活上の困りごとやサービスへの不満であれば、まず施設へ確認することで解決するケースも多くあります。
まず施設へ確認する。
解決しない、説明に納得できない、重大な問題が疑われるなら次の窓口へ進む。
この順番で考えると分かりやすいでしょう。
- ① 現場職員・相談員などへ確認
- ② 施設ケアマネ・責任者へ相談
- ③ 施設長・管理者へ相談
- ④ 市区町村など外部へ相談
ただし、これは必ず①から順番に進まなければならないという意味ではありません。
虐待が疑われる、本人の安全に関わる、施設へ相談すること自体に不安があるといった場合は、最初から市区町村などの外部窓口へ相談することも考えてください。
普段の介護なら現場職員に聞くのが早いこともある
例えば、
「最近、母のお風呂の回数が少ない気がする」
「服がいつも同じなんだけど」
「食事を残しているって本当?」
こうした普段の生活については、実際に本人を介助している職員が一番状況を知っていることがあります。
まずは、
「母がこう言っているんですが、最近どうですか?」
くらいに聞いてみれば十分です。
その場で分からなければ、確認してもらえばいいのです。
一方、サービス内容全体への不満、事故の説明、職員対応への苦情などは、生活相談員、施設ケアマネ、介護主任、施設長などへ話を上げた方がよい場合があります。
施設によって役職や相談窓口は異なるため、契約時に渡された重要事項説明書などで苦情相談窓口を確認しておきましょう。
苦情を言うと母ちゃんの扱いが悪くならない?
家族として、これはかなり気になるところだと思います。
本人はこれからもそこで生活する。
介護してくれるのも施設職員。
そう考えると、
「クレームを入れた家族だと思われたら、母の扱いが悪くならないかな」
と心配になるのも無理はありません。
ただ、気になることまで我慢する必要はありません。
国の有料老人ホームに関する標準指導指針でも、入居者からの苦情について迅速かつ円滑な解決を図るため、施設側に苦情処理体制を整備することなどが示されています。
苦情や相談を受けること自体が、施設運営から外れた特別な出来事というわけではありません。
大切なのは、最初から相手を責めることより、「何があったのか確認したい」というところから話すことです。
「母からこう聞いたのですが、施設ではどのような状況だったか教えてもらえますか?」
「このあざについて何か記録は残っていますか?」
「最近こういうことが続いているので、一度確認してもらえませんか?」
このくらいで十分です。
本人の話だけで職員を決めつけず、逆に施設の説明だけで本人の訴えを終わらせず、両方の話を確認していきましょう。
「誰が悪い?」より「次からどうする?」まで聞こう
苦情を伝えるとき、原因を確認することはもちろん大切です。
でも、私ならもう一つ確認します。
「それで、次からどうしますか?」
例えば同じような転倒が続いているなら、
「気を付けます」
だけで終わるより、
「移動方法を見直します」
「福祉用具を再検討します」
「職員間で介助方法を統一します」
など、再発を防ぐために何をするのかまで確認した方が安心できます。
施設へ苦情を言う目的は、職員を怒ることではありません。
母ちゃんが明日から少しでも安心して暮らせる状態にすることです。
施設へ相談しても解決しないときは外部へ
施設へ相談しても説明がない。
同じ問題が何度も繰り返される。
施設側の説明にどうしても納得できない。
そんな場合は、家族だけで抱え込む必要はありません。
施設の外にも相談先があります。
- 市区町村の介護保険担当窓口
- 地域包括支援センター
- 都道府県国民健康保険団体連合会
- 運営適正化委員会
ただし、どの老人ホームでも、どの苦情でも、すべて同じ窓口が対応するわけではありません。
施設の種類や利用しているサービス、相談内容によって適切な窓口が変わることがあります。
「自分ではどこへ相談すればいいのか分からない」という場合は、まず市区町村の介護保険担当窓口へ相談し、適切な窓口を確認する方法が分かりやすいでしょう。
市区町村|まず外部へ相談したいとき
施設内で解決できない場合や、介護サービスについて外部へ相談したい場合は、市区町村の介護保険担当窓口が相談先の一つになります。
特に、
- 施設へ何度相談しても改善されない
- 施設の説明に納得できない
- どの外部機関へ相談すればいいか分からない
といった場合は相談してみましょう。
また、虐待が疑われるケースについては、通常のサービスへの苦情とは分けて考える必要があります。
厚生労働省の高齢者虐待対応の国マニュアルでも、養介護施設従事者等による高齢者虐待について、市町村・都道府県による事実確認や対応の流れが整理されています。
国保連|介護サービスへの苦情
介護保険サービスに関する苦情では、都道府県の国民健康保険団体連合会(国保連)が相談先になる場合があります。
介護保険法では、国保連の業務として、指定介護サービス等の質の向上に関する調査や、事業者への必要な指導・助言が定められています。
そのため、対象となる介護保険サービスについて、施設との話し合いだけでは解決が難しい場合の相談先の一つです。
ただし、「老人ホームへの苦情なら何でも国保連」というわけではありません。
例えば、介護保険サービスそのものではなく、住まいとしての契約や施設独自サービスに関する問題などは、別の窓口が適切な場合があります。
迷った場合は、市区町村や国保連へ相談内容を伝え、対象になるか確認してください。
運営適正化委員会|福祉サービスの苦情
各都道府県の社会福祉協議会には、福祉サービスに関する苦情の解決を支援する「運営適正化委員会」が設置されています。
社会福祉法では、苦情について相談に応じ、必要な助言や事情の調査を行い、条件を満たせばあっせんを行う仕組みが定められています。
さらに、苦情解決の過程で利用者への不当な行為が行われているおそれがあると認めた場合には、都道府県知事へ通知する仕組みもあります。
ただし、こちらも相談内容や施設・サービスの種類によって対象になるか確認が必要です。
苦情を伝える前にメモを残しておこう
施設へ相談するときは、感情を抑えて完璧に話そうとする必要はありません。
家族なら腹が立つことだってあります。
ただ、施設側が確認しやすい情報を残しておくことは大切です。
- いつ起きたのか
- 本人が何と話したのか
- 家族が実際に見たもの
- 対応した職員が分かればその情報
- 施設から受けた説明
例えば、
「8月20日の面会で右腕にあざを見つけた。本人は『昨日ぶつけた』と言っているが、家族は施設から連絡を受けていない」
ここまで整理できれば、施設側も記録や勤務者などを確認しやすくなります。
逆に、
「いつか分からないけど、母が前からひどい目に遭っていると言っている!」
だけでは、施設側も事実確認が難しくなります。
本人の話を疑うために記録するのではありません。
本人を守るために、確認できる材料を残しておく。
そのくらいに考えておけばいいと思います。
家族の希望でも施設にはできないことがある
ここは施設側で働いていた立場として、家族にも知っておいてほしいところです。
施設への相談や要望は遠慮する必要はありません。
でも、介護や医療にはできることと、できないことがあります。
弱ってきた利用者さんについて、ご家族から、
「栄養のある点滴をしているのに、どうして元気にならないんですか」
と強く言われたことがあります。
ご家族からすれば、弱っていく親を何とか元気にしてほしい。
その気持ちは分かります。
私も何度か、「できる限りの支援はしますが、以前の状態まで戻すことが難しい場合もあります」と説明してきました。
家族の希望を聞くことは大切です。
ただ、介護職や施設だけで、加齢や病気による身体の変化そのものを元に戻せるわけではありません。
これは「家族は文句を言うな」という話ではありません。
むしろ、分からないことは聞いていい。
納得できないことも確認していい。
そのうえで、施設側も「できること・できないこと・その理由」を家族へ説明することが大切だと思います。
苦情を言えることと、すべての希望が実現できることは別です。
家族と施設が敵同士になる必要はありません。
どちらも最終的に考えたいのは、「本人がこれからどうすれば安心して暮らせるか」です。
それでも話し合いが噛み合わない場合や、施設への不信感がどうしても消えない場合は、外部へ相談するだけでなく、施設そのものを変えるという選択肢が必要になることもあります。
それでも改善しないなら施設を変えるのも選択肢
老人ホームへ苦情を伝えたからといって、すぐに退去や転居を考える必要はありません。
介護の現場では、人と人が関わっている以上、行き違いや説明不足が起きることはあります。
大切なのは、問題が一度起きたかどうかだけではありません。
問題が起きたあと、施設がどう対応したか。
ここを見てください。
家族から相談を受けたあとに事実確認をしたのか。
必要な説明があったのか。
問題があれば改善策を考えたのか。
そして、同じことが繰り返されていないか。
私は、このあたりが施設を信頼できるか判断するポイントになると思っています。
- 何度相談しても改善されない
- 説明を求めても曖昧な回答が続く
- 同じ問題が繰り返される
- 本人が強い苦痛や不安を訴え続けている
- 家族が施設をどうしても信頼できなくなった
老人ホームは、本人にとって生活の場所です。
家族が施設へ行くたびに、
「また何か起きていないかな」
「母ちゃん大丈夫かな」
と不安になる状態がずっと続くのであれば、別の施設を探すことも考えていいと思います。
完璧な老人ホームを探す必要はない
ただし、一つ知っておいてほしいことがあります。
何も問題が起きない老人ホームを探そうとすると、施設選びはかなり難しくなります。
多くの利用者さんが生活し、多くの職員が交代で介護しています。
人が関わる以上、行き違いやミスが絶対に起きないとは言い切れません。
だから私なら、
「問題を起こさない施設」だけではなく、「問題が起きたときにきちんと向き合う施設か」を見ます。
例えば、施設側のミスがあったとします。
そこで言い訳ばかりするのか。
それとも、事実を確認して家族へ説明し、必要なら謝罪して再発防止まで考えるのか。
私は後者なら、一度の問題だけで「悪い施設」とは判断しません。
逆に、小さな問題でも隠す、説明しない、何度言っても変わらない。
そんな状態が続けば、施設への信頼は少しずつなくなっていきます。
国の有料老人ホーム設置運営標準指導指針でも、施設には苦情処理体制を整備することに加え、事故が発生した場合や事故につながる危険な事態について、分析した改善策を職員へ周知する体制などが示されています。
施設を変える前に本人の気持ちも確認しよう
施設への不満が大きくなると、家族としては、
「こんな施設から早く出してあげたい」
と思うことがあります。
もちろん、本人の安全に重大な問題があるなら、早急な対応が必要になる場合もあります。
しかし、通常のサービスへの不満や施設との関係悪化で転居を考える場合は、本人の気持ちも確認してみてください。
施設で暮らしているのは家族ではなく、本人だからです。
本人には、家族からは見えない施設での生活があります。
仲の良い利用者さんがいるかもしれません。
好きな職員がいるかもしれません。
毎日の体操やレクリエーションを楽しみにしているかもしれません。
家族に対して職員への愚痴を言っていても、普段はその職員と普通に笑って話していることだってあります。
家族が施設へ抱いている不満と、本人が施設で感じている暮らしやすさは、必ずしも同じではありません。
だからこそ、転居を決める前には、本人の希望、普段の様子、施設からの説明などを合わせて考えたいところです。
もちろん、本人が意思を十分に伝えられない場合もあります。
その場合は、表情や生活の様子、職員との関係なども含めて考えていきましょう。
転居にも本人への負担がある
老人ホームを変えるということは、単に部屋を移動するだけではありません。
生活環境が変わります。
職員も変わります。
周囲の利用者さんも変わります。
一日の生活リズムも変わるかもしれません。
そのため、
「今の施設への不満」と「転居することで本人にかかる負担」の両方を考えることが大切です。
それでも転居した方が本人にとってよいと判断したなら、次の施設を探していきましょう。
そのときは、今の施設で何が合わなかったのかを整理しておくと、次の施設選びにも役立ちます。
老人ホームを選び直すときはこちらも参考にしてください。
こんなときは施設との話し合いだけで終わらせない
ここまで、まず施設へ事実確認することをおすすめしてきました。
しかし、すべてのケースで、
「まず施設へ相談して様子を見ましょう」
でいいわけではありません。
高齢者虐待防止法では、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した施設従事者には、市町村への通報義務が定められています。
家族についても、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合、生命や身体に重大な危険が生じているケースでは市町村への通報義務があり、それ以外の場合にも通報に努めることが定められています。
「虐待だと証明できないから相談できない」と考える必要はありません。
虐待かどうかを家族だけで確定させてから相談する制度ではないからです。
また、第1部で説明したとおり、施設が「不適切な介助だった」と判断することと、高齢者虐待防止法上の「虐待」と行政が判断することは同じではありません。
家族が最初から法律上の虐待に該当するかを判断する必要もありません。
「これは普通の介護なのかな?」
「この傷はどうしてできたんだろう?」
そう感じた段階で、まず確認・相談してください。
老人ホームの苦情でよくある質問
相談先によって匿名で相談できる場合があります。
ただし、施設に具体的な事実確認や改善を求める場合、利用者さんや日時などの情報が分からないと確認が難しくなることがあります。
名前を出すことに不安がある場合は、最初に相談窓口へ「匿名でも相談できますか?」と確認してみましょう。
相談して構いません。
ただし、本人の話だけで職員が悪いと決めつけるのではなく、
「本人がこう話しています。施設では何か把握していますか?」
と事実確認から始めることをおすすめします。
本人の訴えを無視しないことと、事実を確認することは両立できます。
気になる内容なら確認してください。
認知症があるからといって、本人の訴えをすべて「認知症だから」で終わらせるのはおすすめできません。
一方で、本人の認識と実際の出来事が異なることもあります。
本人の気持ちは受け止めながら、施設側の記録や普段の様子も確認して判断しましょう。
あざや皮下出血があるだけで、直ちに虐待とは判断できません。
高齢になると皮膚が弱くなったり、病気や服薬などさまざまな理由で皮下出血が起きたりすることがあります。
ただし、原因が分からない、何度も繰り返している、本人の説明と施設の説明が合わないなど、気になることがあれば施設へ確認してください。
虐待が疑われる場合は、市区町村への相談・通報も考えましょう。
苦情を伝えたことだけを理由に当然に退去になる、というものではありません。
退去に関する条件は入居契約書や重要事項説明書などで定められています。
不安な場合は、契約書の解除・退去に関する項目を確認してください。
施設から退去を求められ、理由に納得できない場合は、市区町村など外部の相談窓口へ相談する方法もあります。
一度の問題だけで決める必要はありません。
問題が起きたあとに施設が事実確認をしたか、家族へ説明したか、改善策を考えたか、同じことが繰り返されていないかを見てください。
そのうえで本人の気持ちや転居による負担も考え、それでも安心して任せられないのであれば、別の施設を探すことも選択肢です。
まとめ|母ちゃんの話も施設の話も聞いて、それでもおかしければ動く
老人ホームで本人から不満を聞いたら、家族として心配になるのは当然です。
だからといって、
「母ちゃんが言っているから職員が絶対に悪い」
と決める必要もありません。
逆に、
「施設に入れてもらっているんだから我慢しよう」
と本人の訴えを全部流す必要もありません。
- 本人の話を聞く
- 家族が見た事実を整理する
- 施設へ状況を確認する
- 改善策まで確認する
- 解決しなければ外部へ相談する
- それでも難しければ転居も考える
そして、本人の安全に関わる重大な問題や虐待が疑われる場合は、この順番どおりに待つ必要はありません。
市区町村などへ相談してください。
国の有料老人ホーム設置運営標準指導指針でも、施設には苦情処理体制の整備、外部の苦情処理機関の周知、事故発生時の家族等への連絡や記録などが示されています。
家族が疑問を持ったときに確認することは、決して悪いことではありません。
もし私の母親が施設へ入居していたら、元気に職員の愚痴を言っているくらいなら、まず話を聞きます。
でも、介助が必要になった母親の体に原因の分からないあざがあったら、私は施設へ聞きます。
「これ、どうしたんですか?」
別に怒鳴る必要はありません。
施設を疑っていると決めつける必要もありません。
まず説明を聞けばいい。
そこで納得できる説明があり、その後きちんと対応してくれるなら、それも施設との信頼関係だと思います。
逆に、何度聞いても説明がない、同じことが続く、母親の様子もおかしい。
そこまで来たら、私は「この施設に母ちゃんを任せ続けて大丈夫か?」を考えます。
施設に遠慮することより、本人が安心して暮らせているか。
最後はそこを基準にしていいと思います。
【監修・執筆】よっしー
介護福祉士/介護支援専門員(ケアマネジャー)
介護業界18年。介護職として10年以上の現場経験を持ち、施設ケアマネジャーとして約5年勤務。老人ホーム入居相談員として、本人・家族の施設探しや入居相談にも携わる。
介護現場・ケアマネ業務・老人ホーム相談の実務経験をもとに、制度だけでは見えにくい介護のリアルを、本人や家族の目線に立って分かりやすく発信しています。


