認知症の初期症状10選|加齢による物忘れとの違い・受診の目安を解説
「最近、母が同じことを何度も聞くようになった」
「さっき話したことを、また初めて聞いたように話している」
「財布がない、誰かに盗られたと言うようになった」
親にこんな変化が出てくると、家族としては心配になりますよね。
「これって認知症の初期症状なの?」
ネットで調べると「認知症の初期症状○選」といったチェック項目がたくさん出てきます。
でも、介護の仕事を18年続け、認知症グループホームでも約6年間働いてきた私が家族に一番伝えたいのは、症状を何個覚えるかではありません。
「昔の母ちゃんと比べて、何か変わってない?」を見ることです。
同じことを何度も聞く。
1時間前にしたことを忘れて、もう一度やろうとする。
「ご飯まだ?」と1日に何度も聞く。
物をしまった場所が分からず、「盗られた」と騒ぐようになる。
家から出ることが減った。
今まで普通にできていた家事がうまくできなくなってきた。
こうした変化があったからといって、家族だけで「認知症だ」と判断することはできません。
でも、「年だから仕方ない」で全部片づける必要もありません。
この記事では、認知症の初期にみられることがある変化を公的情報で確認しながら、認知症介護の現場で私が実際に見てきた生活の変化も交えて解説します。
最後まで読めば、症状を暗記するのではなく、「うちの親の場合、何を見て、いつ相談すればいいのか」が分かるようになります。
- 認知症の初期にみられることがある変化
- 加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れの考え方
- 家族だから気づける「以前との違い」
- 認知症介護の現場で実際に見てきた生活の変化
- 「もしかして」と思ったときの相談先
- 自分の親だったら、私ならどの段階で動くか
- 認知症の初期症状は「10個当てはまったら認知症」ではない
- 家族に見てほしい認知症の初期にみられる10の変化
- 「同じことを何度も聞く」は回数より昔との違いを見る
- 「ご飯まだ?」は、言葉だけで判断しない
- 財布を「盗られた」は、本人にとっては本当に困っている
- 「できなくなったこと」だけでなく「しなくなったこと」も見る
- 認知症になったら「何もできなくなる」わけではない
- 「もしかして認知症?」と思った段階で相談していい
- 加齢による物忘れと認知症による物忘れは何が違う?
- 「昨日の夕飯を忘れた」と「夕飯を食べたことを忘れた」は少し違う
- 認知症が心配なら「物忘れ」より生活全体を見る
- 家族だから気づける「ちょっとした変化」がある
- 家族の「なんか変」はメモしておくと相談しやすい
- 本人に「認知症でしょ?」と問い詰めても解決しない
- 受診を考えるのは「認知症だと確信してから」じゃなくていい
- 「まだ普通に話せるから大丈夫」とも限らない
- 「少し気になる」でも受診・相談していい
- 受診するときは「家族しか知らない昔の姿」を伝えてほしい
- 本人に「認知症なんだから」と言い聞かせても、家族が疲れるだけのこともある
- 現場で覚えたのは「なんで?」より「本人にはどう見えている?」だった
- 認知症になっても「できること」は意外と残っている
- 「できないからやらせない」が、本人の暮らしを小さくすることもある
- 自分の母なら、どこまで来たら今後の暮らしまで考える?
- どこへ相談すればいいか分からなければ、包括に「どうしたらいい?」でいい
- 認知症の初期症状でよくある質問
- まとめ|「認知症かどうか」より、昔の親との違いを見てほしい
認知症の初期症状は「10個当てはまったら認知症」ではない
まず、ここを一番最初に伝えておきます。
この記事で紹介する症状に何個当てはまったら認知症、というものではありません。
もの忘れは年齢を重ねることでも起こりますし、認知機能の変化にはさまざまな原因があります。
国立長寿医療研究センターでは、加齢によるもの忘れでは「体験した出来事の一部を忘れる」、認知症では「体験したこと全体を忘れる」といった違いを示しています。
また、認知症では記憶だけではなく、判断したり、順序立てて物事を進めたりする力などにも変化が現れ、日常生活に支障が出ることがあります。
たとえば、
「昨日の夕飯、何食べたっけ?」
と聞くことと、
夕飯を食べたこと自体を忘れて、また食べようとすること。
同じ「忘れる」でも、生活への影響は違います。
家族に見てほしい認知症の初期にみられる10の変化
ここから、認知症の初期にみられることがある変化を紹介します。
ただし、チェックリストとして点数をつけるためではありません。
「うちの母にもある」ではなく、「昔の母と比べて増えた・変わった」を意識して読んでみてください。
| 気づきたい変化 | 家族から見た具体例 |
|---|---|
| 同じことを何度も聞く | 数十分前に聞いたことを、初めて聞くようにもう一度質問する |
| 出来事そのものを忘れる | 食事をしたこと自体を忘れて「まだ食べていない」と言う |
| 物を置いた場所が分からない | 財布や鍵を探すことが増え、しまったこと自体を覚えていない |
| 今までできた家事につまずく | 料理や洗濯など、慣れていた作業の手順が分からなくなる |
| 時間や場所が分かりにくくなる | 日にちを何度も確認する、慣れた場所で迷う |
| お金の管理が難しくなる | 支払いやお釣りの管理、同じ物の購入などで失敗が増える |
| 会話につまずく | 言葉が出にくい、話の流れが以前よりつながりにくい |
| 判断や段取りが変わる | 今まで普通にできていた予定や作業を進めにくくなる |
| 外出や活動が減る | 買い物や趣味など、以前していたことをしなくなる |
| 性格や行動に変化がみられる | 以前より怒りっぽい、不安が強いなど、家族が違和感を覚える |
「同じことを何度も聞く」は回数より昔との違いを見る
「同じことを何度も聞く」は、家族が気づきやすい変化の一つです。
でも、1回同じ質問をしただけで認知症という話ではありません。
私なら、回数だけではなく、その人の以前の生活と比べます。
たとえば、今までそんなことがほとんどなかった母が、
「今日何曜日?」
と聞いた10分後に、
「今日何曜日?」
とまた聞く。
予定を伝えても、しばらくするとまた初めて聞いたように質問する。
こういうことが繰り返されるようになったら、私は「最近ちょっと違うな」と見ます。
認知症介護の現場で長く働いていると、同じ質問を何度も受けること自体は珍しい光景ではありません。
職員側は慣れているので、そのたびに大騒ぎするわけでもありません。
でも家族は違います。
何十年も一緒に暮らしてきた母や父が、昨日までとは違う。
その「なんか変だな」は、家族だから気づける情報でもあります。
「ご飯まだ?」は、言葉だけで判断しない
認知症介護の現場では、
「ご飯まだ?」
という言葉を聞くことがあります。
食事をしたばかりなのに、また食事の話をする。
家族からすると、かなりショックだと思います。
ただ、ここでも言葉一つだけを切り取って、家族が認知症だと決めつける必要はありません。
見てほしいのは、生活全体で以前との違いが重なっていないかです。
同じ質問が増えた。
物を探すことが増えた。
家事の失敗が増えた。
外出しなくなった。
そして、食事をしたことそのものを覚えていないような場面も出てきた。
私は、こうした変化が重なってきたら「年齢のせいかな」で終わらせません。
財布を「盗られた」は、本人にとっては本当に困っている
グループホームで働いていた頃、物を集めて自分の部屋へ持っていく方は珍しくありませんでした。
食堂に置いてあるティッシュを自分の居室へ持っていき、タンスの中へしまっている。
ところが、しまったことを忘れてしまう。
財布なども自分で大切にしまい込んだあと、その場所が分からなくなる。
すると、
「誰かが盗った」
という話になることもありました。
家族からしたら、
「自分でしまったんでしょ!」
と言いたくなるかもしれません。
でも、認知症介護の現場で長く接していると、少し見え方が変わってきます。
本人からしたら、財布がないんです。
そして、自分でしまった記憶もない。
だから本人の中では、「大切な財布がなくなった」という困りごとが起きています。
「できなくなったこと」だけでなく「しなくなったこと」も見る
認知症の変化というと、もの忘ればかりを探してしまいがちです。
でも私なら、生活そのものが変わっていないかも見ます。
毎日買い物へ行っていた母が、ほとんど外へ出なくなった。
好きだった趣味をしなくなった。
料理をしなくなった。
人と会いたがらなくなった。
以前できていたことが難しくなっただけでなく、以前していたことを「しなくなった」という変化です。
もちろん、これだけで認知症とは判断できません。
体調や気分、身体機能、生活環境など、ほかの理由も考えられます。
だからこそ、
「認知症かどうか」ではなく「母の生活が変わった」
という事実を見る。
私はその方が、家族には分かりやすいと思っています。
認知症になったら「何もできなくなる」わけではない
ここは、認知症グループホームで約6年間働いた経験から、どうしても伝えておきたいことです。
認知症になったら、できないことばかり増えて何もできなくなる。
そんなふうに思ってほしくありません。
もちろん、認知症は進行することがあります。
私が関わった方の中にも、徐々にできないことが増えていった方はいました。
グループホームへ入居したからといって、認知症そのものが改善するとは言えません。
家族から、
「入居しても、あまり変わらないんですね……」
と言われたこともあります。
そこはきれいごとではありません。
でも、その逆もありました。
自宅では引きこもりがちだった方が、入居後はみんなと散歩へ行く。
朝の体操に参加する。
イモの皮むきを手伝ってくれる。
庭の草むしりをしてくれる。
家族から見ても、以前より生き生きしているように見える方が実際にいました。
私が経験したグループホームは、決して華やかな場所ではありませんでした。
むしろ泥臭くて、人情味のある職員が多かった。
できないことを全部取り上げるのではなく、
「これならできるよね」
と一緒に生活する。
そんな介護でした。
「もしかして認知症?」と思った段階で相談していい
では、どの段階で相談すればいいのでしょうか。
厚生労働省は、自分や家族などについて「もしかして認知症では」と思われる症状に気づいたときの相談先として、地域包括支援センター、かかりつけ医、認知症疾患医療センター、もの忘れ外来などを案内しています。
つまり、
家族が「認知症だ」と確信してから相談する必要はありません。
私はここを、かなり大事にしたいと思っています。
同じ話が増えた。
物をなくすことが増えた。
家から出なくなった。
今までできていた家事がうまくできない。
「ご飯食べたっけ?」と言うようになった。
でも、普通に話せる日もある。
そうすると家族は、
「まだ大丈夫かな」
と思ってしまいます。
私は、そこで診断ごっこをしなくていいと思っています。
どこへ相談すればいいのか分からない場合は、地域包括支援センターも相談先の一つです。
地域包括支援センターで何を相談できるのか、担当センターの探し方までこちらの記事で詳しく解説しています。
→地域包括支援センターとは?何を相談できる?使い方・探し方を解説
加齢による物忘れと認知症による物忘れは何が違う?
年齢を重ねれば、誰でも物忘れはあります。
私だって、
「あれ?何取りに来たんだっけ?」
なんてことはあります(笑)。
だから、物忘れをした=認知症ではありません。
国立長寿医療研究センターでは、加齢による物忘れと認知症による物忘れについて、次のような違いを示しています。
| 見るポイント | 加齢による物忘れ | 認知症による物忘れでみられる特徴 |
|---|---|---|
| 忘れ方 | 体験したことの一部を忘れる | 体験したことそのものを忘れる |
| きっかけがあったとき | ヒントがあれば思い出せることが多い | ヒントがあっても思い出せないことがある |
| 本人の自覚 | 物忘れを自覚していることが多い | 物忘れの自覚が乏しいことがある |
| 生活への影響 | 日常生活への大きな支障は生じにくい | 認知機能の低下によって日常生活に支障が出る |
参考:国立長寿医療研究センター|認知症の早期発見・早期介入実証プロジェクト研究
「昨日の夕飯を忘れた」と「夕飯を食べたことを忘れた」は少し違う
家族目線で考えるなら、この例が分かりやすいと思います。
母に、
「昨日の夕飯、何食べた?」
と聞いたとします。
「何だったっけ……魚だったかな?」
そこで、
「ほら、お父さんがスーパーで買ってきたやつ」
と言ったら、
「ああ、刺身ね!」
と思い出した。
こうした「食べた内容の一部を忘れている」という物忘れは、加齢でもみられます。
一方で、私なら気になるのは、
夕飯を食べたこと自体が抜けているような場面です。
夕食を食べた1時間後に、
「ご飯まだ?」
と言う。
「さっき食べたよ」と伝えても、食事をしたこと自体を覚えていない。
さらに、それが一度だけではなく何度も起こるようになった。
国立長寿医療研究センターも、認知症による物忘れでは、体験した出来事そのものを忘れることが特徴の一つとしています。
認知症が心配なら「物忘れ」より生活全体を見る
認知症という言葉を聞くと、どうしても「記憶」ばかり気になります。
でも認知機能には、記憶だけでなく、注意、判断、思考、言語などさまざまな働きがあります。
そのため家族には、
「最近忘れるようになった?」
だけでなく、生活全体を見てほしいと思っています。
| 生活場面 | 家族が気づきやすい変化の例 |
|---|---|
| 食事 | 食べたことを忘れる、料理の手順につまずく |
| 服薬 | 飲んだか分からない、同じ薬をもう一度飲もうとする |
| 買い物 | 同じ物を何度も買う、支払いで戸惑うことが増える |
| お金 | 財布を頻繁に探す、管理が以前より難しくなる |
| 家事 | 料理・洗濯など慣れていた作業につまずく |
| 外出 | 以前よく出かけていた人が外へ出なくなる |
| 予定 | 約束や予定を繰り返し確認する、忘れることが増える |
| 行動 | 同じことを何度も繰り返す、以前とは違う行動が増える |
国立長寿医療研究センターのもの忘れ外来でも、同じことを言ったり聞いたりする、薬の管理が難しくなる、以前あった関心や興味が失われる、時間や場所の感覚が不確かになるなど、日常生活に現れるさまざまな変化を確認しています。
家族だから気づける「ちょっとした変化」がある
私は認知症グループホームで約6年間働きました。
その経験から思うのは、
家族にしか分からない変化がある
ということです。
私たち職員は、入居してきた時点からその方との生活が始まります。
でも家族は違います。
10年、20年、場合によっては50年以上、その人を見ています。
だから、
「母ちゃん、こんなにせかせかする人じゃなかった」
「昔は毎日買い物に行っていたのに」
「こんなに何度も洗濯する人じゃなかった」
「財布をなくしたと騒ぐことなんてなかった」
という「昔との違い」に気づけます。
これは病院の検査結果とは別の、家族だから持っている大切な生活情報だと思っています。
家族の「なんか変」はメモしておくと相談しやすい
親の変化に気づいたら、私は簡単に記録しておくことをおすすめします。
難しいものはいりません。
| 日付 | 実際にあったこと | 以前との違い |
|---|---|---|
| 8月3日 | 昼食1時間後に「昼ご飯まだ?」と聞いた | 今までほとんどなかった |
| 8月6日 | 財布がないと言って家中を探した | タンスから見つかった。同じことが今月2回目 |
| 8月9日 | 洗濯した直後に、もう一度洗濯機を回そうとした | 最近同じ家事を繰り返すことがある |
| 8月12日 | いつものスーパーへ行かず家にいた | 以前はほぼ毎日買い物へ行っていた |
こんな程度で十分です。
「認知症っぽい」
ではなく、
「いつ、実際に何があったのか」
を残す。
その方が、医療機関や地域包括支援センターなどへ相談するときに状況を説明しやすくなります。
本人に「認知症でしょ?」と問い詰めても解決しない
家族としては心配だからこそ、つい確認したくなると思います。
「さっき言ったでしょ?」
「ご飯食べたでしょ?」
「自分で財布しまったんじゃないの?」
「最近おかしいよ」
毎日同じことが続けば、家族だって疲れます。
私は介護職だったから冷静に対応できました、なんて綺麗なことを言うつもりもありません。
仕事として認知症のある方と接していても、同じ話を何度も聞けば大変なときはありました。
まして家族なら、24時間生活が続きます。
腹が立つことがあっても不思議ではありません。
ただ、認知症が疑われる変化があるときに、家族だけで本人へ正解を言わせようとしても、問題の解決にはつながりません。
財布がないと言っているなら、まず一緒に探す。
食事したか分からないなら、食事の状況を確認する。
薬が飲めているか分からないなら、服薬状況を確認する。
そして同じことが続いているなら、家族だけで抱えず相談する。
受診を考えるのは「認知症だと確信してから」じゃなくていい
国立長寿医療研究センターでは、もの忘れがあるからすぐ認知症と判断するわけではなく、もの忘れの程度を確認するためにも早い段階での受診を勧めています。
また、認知症かどうか分からない場合は、まずかかりつけ医へ相談し、必要に応じてもの忘れ外来、脳神経内科、精神科、老年内科などへの受診を検討する方法があります。
かかりつけ医がいない場合には、認知症疾患医療センターや地域包括支援センターへ相談する方法も案内されています。
参考:国立長寿医療研究センター|認知症の早期発見・早期介入実証プロジェクト研究
私はここを、
「認知症かどうか確かめるためだけに病院へ行く」
と考えなくてもいいと思っています。
家族から見て、
「最近ちょっと違う」
「一人暮らしを続けて大丈夫かな」
「薬が飲めているか心配」
「食事をちゃんと取れているのか分からない」
そこまで来たら、相談する理由としては十分です。
「まだ普通に話せるから大丈夫」とも限らない
親と普通に会話ができる。
自分の名前も分かる。
テレビも見ている。
だから、
「まだ認知症じゃないよね」
と思う家族もいるかもしれません。
でも私は、そこだけでは見ません。
普通に会話できる時間があっても、生活の中では、
薬の管理が難しくなっている。
同じ物を何度も買っている。
食事したことを忘れる。
財布を毎日のように探している。
料理をしなくなった。
そんな変化が出ていることもあります。
だから、
「会話ができるか」だけではなく、「一人で生活を続けるうえで困っていることはないか」
まで見てほしいと思っています。
「少し気になる」でも受診・相談していい
親の様子が少し変わってきても、家族は迷います。
普通に会話はできる。
一人で着替えもできる。
テレビも見ている。
だから、
「まだ病院へ行くほどじゃないかな」
と思ってしまう。
その気持ちは分かります。
でも、認知症かどうかを家族が確定させてから受診する必要はありません。
国立長寿医療研究センターでも、「もの忘れ」があるからすぐ認知症と判断するのではなく、もの忘れの程度や原因を確認するために早い段階での受診を勧めています。
まずはかかりつけ医へ相談し、必要に応じて、もの忘れ外来、脳神経内科、精神科、老年内科などにつながる方法があります。
かかりつけ医がいない、どこへ相談すればいいのか分からない場合には、地域包括支援センターへ相談することもできます。
受診するときは「家族しか知らない昔の姿」を伝えてほしい
医療機関では、認知機能の検査だけでなく、本人や家族から普段の生活について話を聞いたり、必要に応じて血液検査や画像検査などを行ったりしながら総合的に判断します。
国立長寿医療研究センターでも、もの忘れ外来では認知機能の検査や血液検査、MRIなどを組み合わせて診断を行っています。
ここで、家族にしか出せない情報があります。
「この人、昔はどうだったのか」
です。
医師は今日の母を見ることはできます。
でも、5年前、10年前の母を知っているわけではありません。
毎朝必ず化粧していた。
毎日スーパーへ行っていた。
料理が得意だった。
約束を忘れる人ではなかった。
財布をなくしたと騒ぐこともなかった。
その家族が、
「半年前くらいから明らかに変わりました」
と感じている。
これは大事な情報だと思います。
本人に「認知症なんだから」と言い聞かせても、家族が疲れるだけのこともある
認知症介護の記事では、
「本人を否定しないようにしましょう」
とよく書かれます。
もちろん大切な考え方です。
でも私は、家族へ、
「何があっても笑顔で優しく対応してください」
とは言いたくありません。
それは現実的ではないからです。
同じ質問を10回される。
財布を盗ったと言われる。
食事を出したのに「食べさせてもらっていない」と言われる。
仕事から疲れて帰ってきた家族が、毎日それに対応する。
腹が立つ日があって当然だと思います。
認知症グループホームで働いていた私たちは、こうした場面に何度も出会うので、良くも悪くも慣れていきました。
でも家族は、仕事として8時間関わって帰宅するわけではありません。
生活そのものが介護になります。
現場で覚えたのは「なんで?」より「本人にはどう見えている?」だった
認知症グループホームで働き始めた頃、私にも戸惑うことはありました。
トイレを失敗する。
物を集めて部屋へ持っていく。
自分でしまった物を「盗られた」と言う。
同じことを何度も聞く。
介護を始めたばかりなら、
「なんでこんなことするの?」
と思います。
でも6年間グループホームで働いているうちに、見方が少し変わりました。
「本人には今、どう見えているんだろう?」
と考えるようになりました。
自分で財布をタンスへしまった記憶がない。
でも財布はない。
本人からすれば、
「財布がなくなった」
という出来事は本当に起きています。
そこで、
「自分でしまったんでしょ!」
と正しさだけをぶつけても、話が終わらないことがあります。
認知症になっても「できること」は意外と残っている
認知症の初期症状を調べていると、どうしても、
忘れる。
できなくなる。
迷う。
怒る。
と、悪くなる話ばかり目に入ります。
でも私がグループホームで見てきた生活は、それだけではありませんでした。
自宅では引きこもりがちだった方が、入居してから毎日のように散歩へ出る。
朝の体操へ参加する。
職員が料理をしていると、イモの皮むきを手伝ってくれる。
庭へ出れば、草むしりをしてくれる男性もいる。
認知症はある。
できないこともある。
でも、
できることまで全部なくなったわけではありません。
これは私が何度も見てきた光景です。
現在の国の認知症施策推進基本計画でも、認知症になったら何もできなくなるという見方ではなく、認知症になってからも一人ひとりにできること・やりたいことがあり、希望を持って自分らしく暮らせるという「新しい認知症観」が示されています。
「できないからやらせない」が、本人の暮らしを小さくすることもある
家族としては、失敗させたくありません。
料理で火事になったら困る。
転倒したら困る。
外へ出て迷ったら困る。
だから、
「もう何もしないで」
と言いたくなることがあります。
安全を守ることは当然大切です。
でも一方で、何でも周囲が先回りしてやってしまえば、本人の役割までなくなります。
グループホームでは、
洗濯物を畳む。
野菜の皮をむく。
テーブルを拭く。
庭仕事をする。
散歩へ行く。
その人ができることを一緒にやっていました。
特別なリハビリというより、
普通の生活です。
自分の母なら、どこまで来たら今後の暮らしまで考える?
もし自分の母だったら。
同じことを少し繰り返す程度なら、私はまず様子を見ながら記録します。
でも、
物がなくなったと頻繁に騒ぐ。
以前より落ち着きがなくなった。
ほとんど外へ出なくなった。
洗濯や洗い物を何度も繰り返す。
食事をしたか分からなくなる。
料理を作ったか分からなくなる。
薬を飲んだか分からない。
こうした変化がいくつも生活に出てきたら、私は相談します。
そして、医療や介護サービスについて考えるのと同時に、
「このまま一人で暮らし続けて本当に大丈夫?」
まで考えます。
ただし、
「ご飯を忘れた=老人ホーム」
ではありません。
本人の状態。
同居家族の有無。
介護できる人がいるか。
利用できる介護サービス。
医療面。
本人の希望。
費用。
全部で変わります。
認知症があっても入居できる老人ホームについてはこちらで詳しく解説しています。
どこへ相談すればいいか分からなければ、包括に「どうしたらいい?」でいい
親の変化に気づいたとしても、
病院へ行くべきなのか。
要介護認定なのか。
デイサービスなのか。
施設なのか。
家族には分からないと思います。
それでいいんです。
厚生労働省も、「もしかして認知症では」と思われる症状に気づいたときの主な相談先として地域包括支援センターを案内しています。
地域包括支援センターでは、相談内容に応じて認知症疾患医療センターや認知症初期集中支援チームなどとも連携し、必要な支援につなげる役割があります。
地域包括支援センターで相談できる内容や、自分の担当センターの探し方はこちらの記事で詳しく解説しています。
→地域包括支援センターとは?何を相談できる?使い方・探し方を解説
認知症の初期症状でよくある質問
いいえ。
物忘れは加齢でもみられます。
認知症では、体験したことそのものを忘れたり、記憶以外の認知機能にも変化が生じ、日常生活に支障が出たりすることがあります。
ただし、家族だけで判断することはできません。
以前との変化が続いている場合は、かかりつけ医などへ相談してください。
「○個あれば認知症」という考え方はできません。
症状の現れ方や原因は人によって異なります。
チェック項目は診断の代わりではなく、
「以前との違いに気づく」
「相談するときに状況を整理する」
ための参考として使ってください。
相談できます。
厚生労働省は、自分だけでなく家族など周囲の人について「もしかして認知症では」と気づいたときの相談先として地域包括支援センター等を案内しています。
本人が困っていなくても、家族が生活上の変化を感じているなら相談して構いません。
まず、かかりつけ医がいれば相談してみてください。
必要に応じて、もの忘れ外来、脳神経内科、精神科、老年内科などにつながる場合があります。
かかりつけ医がいない、どこへ相談すればいいか分からない場合は、認知症疾患医療センターや地域包括支援センターへ相談する方法もあります。
診断されたことだけで、すぐ施設入居を決める必要はありません。
本人の状態、生活環境、家族の介護力、利用できるサービス、本人の希望などによって選択肢は変わります。
ただし、一人暮らしで食事・服薬・火の管理などに不安が出てきた場合は、在宅サービスだけでなく施設も含めて早めに情報を集めておくと、選択肢を持ちやすくなります。
いいえ。
国の認知症施策推進基本計画でも、認知症になってからも一人ひとりに「できること・やりたいこと」があり、希望を持って自分らしく暮らせるという考え方が示されています。
私自身、グループホームで、散歩、体操、料理の手伝い、庭仕事などを楽しむ方を何人も見てきました。
できなくなったことだけでなく、今できることを見ることも大切です。
まとめ|「認知症かどうか」より、昔の親との違いを見てほしい
- 初期症状が何個あれば認知症という基準ではない
- 加齢による物忘れと認知症による物忘れには違いがある
- 家族には「昔の親と比べて何が変わったか」を見てほしい
- 変化は病名ではなく、実際に起きた生活場面として記録すると伝えやすい
- 認知症かどうかを家族だけで判断する必要はない
- 気になる変化が続く場合は、かかりつけ医などへ相談する
- 相談先が分からなければ地域包括支援センターへ相談できる
- 認知症になっても、できること・楽しめることまでなくなるわけではない
認知症の初期症状について調べると、
同じことを何度も聞く。
物をなくす。
日付が分からない。
料理ができなくなる。
怒りっぽくなる。
いろいろな症状が出てきます。
知っておくことには意味があります。
でも私は、認知症グループホームで約6年間働き、認知症のある方と毎日の生活を一緒にしてきて、
症状の名前を覚えることより大事なことがある
と思っています。
「昔の母ちゃんと比べて、最近何か変わってない?」
ここです。
毎日出かけていた母が外へ出なくなった。
料理をしていた母が作らなくなった。
財布なんてなくしたことがなかったのに、毎日のように探している。
食事したことを忘れるようになった。
洗濯をしたことを忘れて、また洗濯機を回す。
そういう「その人らしくない変化」は、長く一緒に暮らしてきた家族だから気づけます。
一方で、家族は医師ではありません。
「これは認知症だ」
「これは年齢のせいだ」
と決める必要もありません。
分からないなら相談すればいい。
私はそれでいいと思っています。
そして、もう一つ。
認知症になったら、その人が全部別人になって、何もできなくなるわけでもありません。
グループホームでは、
散歩を楽しむ人。
体操に参加する人。
野菜の皮をむいてくれる人。
庭の草むしりをしてくれる人。
たくさんいました。
認知症があっても、その人の生活は続きます。
だから早く気づく目的も、「認知症という病名を早くつけること」だけではないと思っています。
本人が今できることを大切にしながら、
これからどう暮らすか。
家族はどこまで支えられるか。
何を頼ればいいか。
必要なら、どこで暮らすか。
それを早めに考え始めるためでもあります。
もし自分の母に、
「あれ?最近ちょっと違うな」
と感じたら、私はその違和感を放置しません。
様子を少し記録して、相談します。
そして必要なら、医療も介護も施設も、早めに選択肢を集めます。
「まだ大丈夫」しか選択肢がない状態より、「こういう方法もある」と知っている状態の方が、私はいいと思うからです。
認知症介護の現場に長くいると、
最初はびっくりしたことまで、日常の光景になっていきます。
同じことを何度も聞く。
物を集める。
自分でしまった財布を盗られたと言う。
トイレを失敗する。
正直、介護を始めた頃は、
「なんでこんなことするんだろう」
と思ったこともあります。
でも一緒に暮らしているうちに、
「本人には今、どう見えているんだろう」
と考えるようになりました。
そして認知症のある方が、できないことだらけでもないことも教えてもらいました。
散歩する。
笑う。
料理を手伝う。
庭仕事をする。
職員に冗談を言う。
認知症があっても、その人はその人です。
だから家族には、
「認知症らしい症状を何個探すか」だけに夢中にならないでほしい。
昔の親と比べて、何か変わった。
それに気づいたら、まず相談する。
そして、
できなくなったことと一緒に、まだできることも見てあげてほしい。
GHで6年間、認知症のある方と一緒に生活してきた私から、一番伝えたいことです。
【監修・執筆】よっしー
介護福祉士/介護支援専門員(ケアマネジャー)/埼玉県認知症介護実践者研修 修了
介護業界18年。介護職として10年以上の現場経験を持ち、認知症グループホームで約6年勤務(うち計画作成担当者として約3年)。施設ケアマネジャーとして約5年、デイサービス管理者も経験。老人ホーム入居相談員として、本人・家族の施設探しや入居相談にも携わる。
介護現場・認知症ケア・ケアマネ業務・老人ホーム相談の実務経験をもとに、制度だけでは見えにくい介護のリアルを、本人や家族の目線に立って分かりやすく発信しています。


