老人ホームを変えたいときは?住み替えの手順・費用と相談先を解説
「食事が口に合わない」
「施設の生活が窮屈そう」
「介護が必要になって、今の施設では暮らし続けられないかもしれない」
親が老人ホームで暮らし始めてから、こうした悩みが出てくることがあります。
先に結論をお伝えすると、老人ホームから別の老人ホームへ住み替えることは可能です。ただし、退去を決める前に、今の施設で解決できることと、転居しなければ解決しにくいことを分けて考えるのがおすすめです。
私は介護業界で18年働き、施設ケアマネジャーとして約5年、老人ホーム入居相談員としても、ご本人やご家族の施設探しに関わってきました。
施設で暮らす方から「ここを出たい」と聞くこともあれば、特養などから住み替え先を探してほしいと相談を受けたこともあります。
この記事では、実際に経験した住み替えの相談を交えながら、住み替えの手順・費用・相談先と、後悔しないための確認ポイントをお伝えします。
- 老人ホームを途中で変えることはできるのか
- 住み替えを考える主な理由
- 今の施設で解決できること・できないこと
- 次の施設探しから退去までの進め方
- 住み替えにかかる費用と確認先
- 元入居相談員・施設ケアマネが見てきた住み替えの現実
老人ホームを変えたいときは?住み替えはできる
老人ホームに入居したあとでも、本人や家族の希望、身体状態の変化などによって、別の施設への住み替えを検討できます。
ただし、「変えたい」と思った日からすぐに移れるわけではありません。
次の施設に空きがあるか。本人の状態に合う介護や医療の対応ができるか。費用は払えるか。今の施設との契約はいつまでか。
確認することがいくつもあります。
だから私は、緊急の事情がない限り、次の受け入れ先を確保する前に、今の施設の退去を先に決めないことをおすすめします。
施設側から退去や住み替えの相談があった場合も、いつまでに何を決める必要があるのか、具体的に説明を受けてください。施設が必ず次の入居先が見つかるまで待てるという意味ではありません。
老人ホームを住み替えたい主な理由
住み替えの理由は大きく分けると、本人の暮らしへの不満と、介護・医療・費用など生活条件の変化があります。
① 食事や生活の自由が合わない
私が施設ケアマネとして働いていたとき、利用者さんから聞く不満で印象に残っているのが、
「ここのご飯はおいしくない」
「自由がない」
という言葉です。
もちろん、本人にとって切実な不満です。
食事は毎日のことですし、起きる時間、外出、レクリエーションへの参加など、これまでの暮らしとの違いに戸惑うこともあります。
ただ、「食事が合わない」という理由だけで住み替えても、新しい施設の食事が必ず好みに合うとは限りません。
② 介護度や身体状態が変わった
今まで歩けていた方が車いすを使うようになったり、移乗や排泄に介助が必要になったりすることがあります。
住宅型有料老人ホームなどでは、利用できるサービスと施設の受け入れ体制を確認したうえで、今の暮らしを続けるか、介護付き有料老人ホームなどへ移るか検討することもあります。
「住宅型だから車いすになったら退去」と一律に決まっているわけではありません。実際の介護サービスの提供方法や対応可能な範囲を、施設側に確認することが大切です。
③ 医療的な対応が必要になった
たんの吸引、経管栄養などの医療的ケアが必要になった場合、施設の看護体制や協力医療機関との連携によって、対応できる範囲が変わります。
私が入居相談員だった頃も、特養から「今の施設では医療面の対応が難しいので、別の受け入れ先を探したい」と相談されたことがありました。
どの医療的ケアに対応できるかは、施設ごとに違います。主治医や看護職員の情報をもとに、受け入れ先へ個別に確認しましょう。
④ 費用や家族の事情が変わった
本人の年金や預貯金、家族の負担、通いやすさなどが変わり、住み替えを考えることもあります。
ただし、今より安い施設がすぐ見つかるとは限りません。
とくに特養に近い費用で民間の老人ホームを探したいという相談では、地域や本人の状態によって候補が限られます。
- 本人が一番困っていることは何か
- 介護・医療面で今の施設に何が難しいのか
- 住み替えで必ず改善したい条件は何か
- 毎月払える費用はいくらか
住み替えを決める前に、今の施設へ相談したい
私は、本人から「この施設を出たい」と言われたとき、まず理由を聞くことが大切だと思っています。
例えば「自由がない」と言っても、外出しづらいのか、食事時間が合わないのか、レクリエーションへの参加が負担なのかで、解決方法は変わります。
食事の量や形態、過ごし方、居室の環境など、施設と相談して改善できることもあります。
一方で、必要な医療的ケアに対応できない、本人の安全が保てないなど、施設を変える方が現実的な場合もあります。
実際に住み替えたあと「前の施設に戻りたい」と言った方もいた
以前関わった住み替えのケースで、転居後に本人が「前の施設に戻りたい」と話している、とご家族から聞いたことがあります。
私が対応した住み替えの中でも、印象に残っている一件です。
前の施設に不満があったとしても、慣れた職員や生活の流れ、顔なじみの利用者さんとの関係まで、住み替え先に持っていけるわけではありません。
もちろん、この一例だけで住み替えが良くないとは言えません。
ただ、「住み替えられること」と「住み替えた方が本人に合うこと」は別だと感じています。
老人ホームの住み替え手順|6つのステップ
緊急性や施設の種類によって前後することもありますが、一般的には次の順番で進めると整理しやすくなります。
- 本人の希望と困りごとを整理する
- 今の施設へ相談する
- 予算と必要な介護・医療条件をまとめる
- 候補施設を探し、見学・受け入れ確認をする
- 新しい施設の契約・入居日を調整する
- 今の施設の退去・精算と引っ越しを進める
① 本人の希望と「譲れない条件」を聞く
「静かな環境がいい」「食事を楽しみたい」「家族が通いやすい場所がいい」。
まずは希望を具体的にします。
本人に意思を確認しにくい場合も、これまでの生活歴や好み、家族や普段関わる職員が知っている様子を参考にしましょう。
② 施設長・相談員・ケアマネへ相談する
今の施設に「こういう理由で住み替えを検討しています」と伝え、改善できることがないか、退去に必要な手続きは何かを確認します。
施設ケアマネ、生活相談員、施設長など、窓口は施設によって異なります。
ケアマネがすべての住み替え先を探してくれるとは限りませんが、現在の心身の状態や介護面の課題を整理するうえで相談できます。
③ 予算と医療・介護の条件を整理する
現在の月額費用だけでなく、住み替え先の家賃、管理費、食費、介護保険自己負担、医療費、おむつ代などを合わせて考えます。
本人の身体状態、認知症の症状、通院や医療処置の情報も整理しておくと、施設側が受け入れを判断しやすくなります。
④ 見学して、現在との違いを確かめる
「今の施設で困っていることを、次の施設はどう対応してくれるか」。
この質問を、見学の中心に置いてみてください。
食事が不満なら、食事内容と個別対応。
自由度が不満なら、外出やレクリエーションの参加の考え方。
介護面なら、夜間の介助体制や医療対応。
可能なら本人も見学し、体験入居の有無も確認しましょう。
老人ホーム見学チェックリスト15選|見るべきポイントをケアマネが解説
⑤ 次の施設の入居日を決める
空室があっても、面談や健康情報の確認、入居審査、契約までに時間がかかることがあります。
新施設の受け入れが決まったら、入居日と今の施設の退去日を調整します。
私が入居相談員として老健や特養から相談を受けたときも、「次の施設が決まってから退所を進めて構いません」といった形で調整できたケースがありました。
ただし、施設側に急ぎの事情がある場合もあります。必ず待ってもらえると決めつけず、期限や必要書類は早めに確認してください。
⑥ 退去手続き・精算・引っ越しをする
退去予告の期限、最終月の請求、前払金の返還、居室の原状回復費、荷物の搬出、服薬や医療情報の引き継ぎなどを確認します。
入居先が決まっても、旧施設との契約が自動的に終わるわけではありません。
退去日と費用の精算方法は、書面で確認しておくと安心です。
老人ホームの住み替えにかかる費用は?
住み替えでは、今の施設を出る費用と、新しい施設に入る費用の両方が関係します。
- 新施設の入居時費用・敷金・前払金
- 新施設の月額費用と追加料金
- 旧施設の退去月の利用料
- 前払金・敷金などの返還額
- 原状回復費・クリーニング費
- 引っ越し代・家具や日用品の購入費
前払金や敷金が、全額戻るとは限らない
有料老人ホームの前払金には、契約内容や入居期間によって返還額を計算する仕組みがあります。
何という名目で支払ったお金か、返還条件はどうなっているか、契約書・重要事項説明書で確認してください。
また、退去時の居室修繕費については、国民生活センターもトラブル事例を公表しています。通常の使用や経年変化による損耗は原則として入居者負担に当たらないと考えられますが、契約内容によって確認が必要な場合があります。
参考:国民生活センター「有料老人ホームの退去時トラブル」
有料老人ホームの退去時トラブル(国民生活センター)
参考:厚生労働省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」
高齢者向け住まい(厚生労働省)
2つの施設の費用が重なる場合もある
例えば、新しい施設の入居日が先に決まり、今の施設の退去日が後になる場合は、日程によって両施設への支払いが発生することがあります。
日割り計算になる費用と、月単位で請求される費用も契約により異なります。
「移る月に、合計いくら必要か」を、旧施設と新施設の両方に確認しておきましょう。
東京・埼玉・千葉の老人ホーム費用相場|月額・前払金の見方を解説
入居後に生活保護になったら住み替えは必要?
老人ホームで暮らしている途中に預貯金が減り、生活保護の相談が必要になることもあります。
生活保護を受けることになったからといって、必ず住み替えが必要になるわけではありません。
私が入居相談員をしていた頃も、生活保護を受ける方のために受け入れ枠や料金条件を設けている施設がありました。ただし、受け入れ条件は施設ごとに異なります。
入居前から将来の費用が心配な場合は、次の点を確認しておきましょう。
- 生活保護を受けることになっても継続入居できるか
- 受け入れ枠や料金条件はあるか
- 介護度が変わった場合も住み続けられるか
- 支払いが難しくなったときの相談先はどこか
生活保護の受給可否や認められる扶助は、福祉事務所が本人の状況をもとに判断します。施設で「大丈夫」と言われても、そのまま全ての利用料が支給されるという意味ではないため、早めに福祉事務所へ相談してください。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
特養からの住み替えは、費用と受け入れ条件が難しいことも
私が老人ホーム入居相談員として働いていた頃、特別養護老人ホーム(特養)から直接、住み替え先探しの相談を受けたことがありました。
一つは、介護状態が軽くなり、施設から住み替えを検討するよう話が出たケースです。
本人はすでに施設での生活に慣れていて、自宅へ戻ることは現実的ではない。ご家族は「特養に近い費用の施設を探してほしい」と希望されていました。
正直、簡単な相談ではありませんでした。
特養と民間の有料老人ホームでは、費用の仕組みが違いますし、地域によっては予算に合う候補がなかなか見つかりません。
介護度が下がったら、必ず特養を出るの?
特養の新規入所は原則として要介護3以上で、要介護1・2には特例入所の仕組みがあります。
入所後に介護度が軽くなった場合も、入所時期、本人や家族の生活状況、特例に当たる事情などを含めて確認が必要です。
「要介護2になったから必ず即退所」と単純には言えません。
施設から住み替えを勧められたら、理由、判断の根拠、退所の見通し、必要な支援について説明を求めてください。
参考:厚生労働省「指定介護老人福祉施設等の入所に関する指針について」
特養の入所・特例入所に関する指針(厚生労働省)
参考:厚生労働省「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」
特養の退所支援に関する基準(厚生労働省)
医療的ケアが増えて住み替えるケースも
別のケースでは、特養側から医療的な対応が難しくなった利用者さんの相談を受けました。
医療的ケアが必要だからといって、すべての特養で同じ判断になるわけではありません。
重要なのは、本人に何の医療的ケアが必要で、今の施設がどこまで対応でき、次の施設が何を受け入れられるのかという具体的な確認です。
医療面で急ぎの調整が必要な場合は、主治医や病院の相談員、施設の看護職員などとも連携して進めましょう。
住み替え先で後悔しないために確認したいこと
次の施設を選ぶとき、私は「今の施設より良さそうか」だけでなく、「今の不満を具体的に解決できそうか」を考えてほしいと思います。
- 本人が嫌だと感じたことに、どう対応するか
- 食事・外出・レクリエーションの自由度
- 今後介護度が上がったときの対応
- 医療的ケア・通院・看取りの対応範囲
- 毎月の総額と追加費用
- 退去になる可能性と契約条件
- 本人が落ち着いて暮らせそうか
高級な施設でも、本人に合わないことはあります。
反対に、設備が特別豪華でなくても、本人が職員やほかの利用者となじみ、安心して過ごせる施設もあります。
条件表だけでなく、可能なら本人と一緒に実際の暮らしを見てください。
老人ホームの住み替えはどこに相談する?
まずは現在の施設の生活相談員、施設長、担当ケアマネなどに、今困っていることと住み替えの希望を伝えてください。
医療的な事情なら主治医や病院の医療ソーシャルワーカー、在宅生活への復帰も含めて考えるなら居宅介護支援事業所や地域包括支援センターが相談先になる場合もあります。
候補施設を探すときは、自治体の情報や厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」も参考になります。
参考:厚生労働省「介護サービス情報の公表制度」
介護サービス情報の公表制度(厚生労働省)
また、退去費用などの契約上のトラブルで困った場合は、消費生活センター(消費者ホットライン188)に相談する方法もあります。
老人ホームの住み替えでよくある質問
本人の意思や心身の状況を丁寧に確認することが大切です。家族だけで決めず、今の施設や医療・介護の専門職と、住み替えが必要な理由や本人への負担を話し合ってください。
急を要する事情がなければ、次の受け入れ先と入居日を確認してから退去日を調整する方が安心です。ただし、現施設の契約条件や対応可能な期限は必ず確認してください。
施設の種類や担当者の役割によって対応は異なります。本人の状態や介護上の課題について相談しつつ、施設の生活相談員、地域の相談窓口、老人ホーム紹介サービスなども必要に応じて利用できます。
施設の契約と新たな入居先の条件によって大きく異なります。前払金の返還額、退去月の利用料、新施設の入居時費用、引っ越し代をそれぞれ確認し、移る月の総額を出してみてください。
要介護度だけで即断できません。特例入所に当たる事情や施設での継続入所の判断なども関係するため、施設に理由と今後の見通しを確認してください。
まとめ|老人ホームの住み替えは、次の暮らしから考えよう
老人ホームを途中で変えることはできます。
でも、新しい施設へ移ったからといって、不満が必ずなくなるわけではありません。
本人の希望と、今の施設で対応できることを確認したうえで、住み替えが必要なら次の生活に合う施設を探していきましょう。
- 老人ホームは入居後でも住み替えを検討できる
- まず本人の不満や困りごとを具体的にする
- 今の施設で解決できることがないか相談する
- 次の施設の受け入れと費用を確認する
- 退去日・入居日・費用の精算を調整する
- 住み替えれば必ず満足できるとは限らない
大切なのは、「今の施設を出ること」そのものではありません。
本人が、次の場所で無理なく安心して暮らしていけるか。
そのための住み替えであってほしいと思います。
よっしーからひとこと
施設ケアマネをしていた頃、利用者さんから「食事がまずい」「自由がない」「ここを出たい」という話を聞くことはありました。
でも、住み替えたあとに「前の施設に戻りたい」と本人が言っている、とご家族から聞いた経験もあります。
住めば都、とは限らないんですよね(笑)。
一方で、身体状態や医療的ケアの変化によって、住み替えを考えなければならない方もいます。
だから私は、住み替えを一律に勧めるつもりも、止めるつもりもありません。
本人がどんな毎日を送りたいか。まずそこから考えてみてほしいです。
【監修・執筆】よっしー
介護福祉士/介護支援専門員(ケアマネジャー)
介護業界18年。介護職として10年以上の現場経験を持ち、施設ケアマネジャーとして約5年勤務。老人ホーム入居相談員として、本人・家族の施設探しや入居相談にも携わる。介護現場・ケアマネ業務・老人ホーム相談の実務経験をもとに、制度だけでは見えにくい介護のリアルを、本人や家族の目線に立って分かりやすく発信しています。



